知らなかった「左手の音楽」の世界がそこにあります。
★「1冊3分で分かる!ピアノ教本マガジン」vol.396(2016年3月9日配信)より
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『ピアノ、その左手の響き 歴史をつなぐピアニストの挑戦』智内威雄・著
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いつもこのブログをお読みいただき、
本当にありがとうございます。
株式会社リーラムジカの藤 拓弘です。
今日ご紹介するのは、
という書籍です。
著者は、左手のピアニストとして著名な智内威雄先生。
ETV特集「左手のピアニスト~もうひとつのピアノ・レッスン」
をご覧になった方も多いのではないでしょうか。
★Eテレ・ETV特集「左手のピアニスト~もうひとつのピアノ・レッスン」
その智内先生の初の書籍となるのが、
今回ご紹介の本です。
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◆今日のチェックポイント◆
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「第0話 響きを創造する―プロローグ」から引用すると、
「『左手のためのピアノ』ということばから、みなさんはどんな
ことを思いますか(中略)両手にくらべれば、ちょっと劣るどこ
かかわいそうな音楽というニュアンスを感じないでしょうか。局
所性ジストニアのために右手のリハビリに夢中になっていたころ、
ぼくも同じように思っていました(中略)あるときまでまったく
その価値に気づかなかった(中略)師匠のネックレベルク教授の
すすめでスクリャービンの楽譜を見た瞬間、それまでとはまった
くちがう音楽の可能性が聴こえてきたのです」
とあります。またこの章の最後には、
「左手の音楽は、演奏する手段にばかり目がいきがちですが、
音楽の響きを得るための手段としてとらえる必要があります
(中略)ピアノという楽器を使って新しい響きをつくりだす
ことができる、もうひとつの可能性を秘めた音楽の一ジャン
ルといっていいほどの大海なのです」
と結論づけています。
本書は「左手のピアニスト」である智内先生の
これまでの道のりを語りながら、
「左手の音楽とは何か?」を追求する、ピアニスト
としての「挑戦」を描いた自叙伝といえるでしょう。
また「局所性ジストニア」という症状に
ついての詳細な記録でもあります。
各章の間には「左手の音楽」に関するコラムが挿入、
心地よいアクセントとなって読み進められます。
このコラムを読めば「左手のピアノ」が何であるかの
大部分を知ることができる、といってもよさそうです。
また、巻末資料「左手のために作品を書いた作曲家たち」は
左手の作品の研究を垣間見る貴重な資料といえます。
ちなみに各章のタイトルをご紹介してみましょう。
第0話 響きを創造する―プロローグ
第1話 ピアノの下にゆりかご―ピアノが子守歌だった幼少期
第2話 早朝練習とラジコン・マニュアルの日々―小学生のころ
第3話 没頭少年と疾走するピアノ―思春期の挑戦
第4話 図書館が世界への扉だった―聴きまくり弾きまくる高校生
第5話 イタリアへ、ドイツへ―ピアニストへの道を選ぶ
第6話 ジストニアから学んだこと―留学時代、難病から再起まで
第7話 左手のピアニストへの道のり―関西に移り住むまで
第8話 「左手のアーカイブ」の活動―ピアノのための道をつくる
あとがき
資料―左手のために作品を書いた作曲家たち
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◆(2)自叙伝にとどまらない「左手のピアノ」の世界を知る貴重な一冊
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本書の真骨頂は、第6話「ジストニアから学んだこと」
からの部分ではないか、と個人的に感じました。
本書でも詳細に語られる「局所性ジストニア」とは、
「不随意で持続的な筋肉収縮をひきおこす神経疾患。
手・指・首・眼瞼など身体の一部に影響をおよぼす」
(本書より引用)
留学中に発症してしまった智内先生は、指一本を
動かすことからの懸命なリハビリに取り組みます。
そこから左手の音楽に出会い、ピアニストとしての
道を歩み始める姿は感動的です。
留学時代のリハビリが、現在の左手の演奏メソッドの
ベースであると振り返っています。
現在、智内先生は「左手のピアノ」のための道を
作るべく「左手のアーカイブ」の活動を展開。
「左手のためのピアノ作品という忘れ去られて
しまった貴重な音楽作品の発掘・復興と、左手を
主とする片手演奏の認知向上と普及振興」
が目的である「左手のアーカイブ」。
こうした芸術の普及活動に専念しているところも、
他のピアニストと一線を画しているところでしょう。
本書は自叙伝にとどまらず、音楽や演奏について、
また生き方にも示唆を与えてくれています。
私が心に残った部分をご紹介すると、
「響きをコントロールすることによって
はじめて、名曲が名曲として世に伝わる」
「楽譜とはその響きやリズムを生みだすためにあるもの」
「拍は、基礎を保ちながらあえて変える、
ゆらすことが味わいになってくる」
「腕自身が軸をもつと、上半身への負担も軽く、
結果的に脱力しての跳躍が可能になります」
「楽譜とは身体の使い方を読み解いていくために
あるのではないか、それが重要なのではないか」
「音には吸う音と吐く音がある」
「だれもやらないなら、それがぼくの
役目であると確信していました」
「ほかの人とちがうことをしたければ、
ほかの人とちがう時間を過ごせばよい」
一人の少年がピアニストになるまでをたどりつつ、
「左手ためのピアノ」を知ることができる一冊。
知らなかった「ピアノ音楽の世界」が
そこにあるかもしれません。
ご興味のおありの先生は、
お手に取ってみてはいかがでしょうか。
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『ピアノ、その左手の響き 歴史をつなぐピアニストの挑戦』智内威雄・著
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◆(3)編集後記
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今回ご紹介の著者の智内威雄(ちない たけお)先生。
実は東京音大時代の同級生でもあります。
当時からまったく格の違う存在でしたね。
弊社の「ピアノ講師ラボ」の対談にもご登場
いただいたときは、かなりの反響でした。
今回のご出版をふくめ、同級の方がご活躍される姿は
本当に嬉しいですし刺激になります。
ちなみに、智内先生の「左手のアーカイブ」の
ご活動はこちらに詳細が掲載されています。
ご興味がおありでしたらのぞいてみてください。
それでは今日も最後までお読みいただき、
ありがとうございました。
今日も素敵なレッスンを。
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